クラシック23_橋本卓哉選手プレスレポート


WBSプロクラシック23プレスアングラーレポート
橋本卓哉 選手

霞ヶ浦のバスフィッシャーマンでこの方の名前を知らない者はほとんどいないはず。

フルタイムプロアングラーであり、トーナメントにおける数々の実績を持ち、派手なラッピングボートで有名な、あの橋本卓哉選手である。

2014年WBSカスミプロクラシック23。
私は橋本プロの釣りを、2日間すぐそばで拝見する機会を得た。10月11日~12日の2日間に霞ヶ浦湖上で起こっていたことの一部をご報告する。

 
■初日

橋本プロへ挨拶を済ませ、ランチングに向かう。

戦いに向かうプロアングラー、このときに考えるのは自分の勝利する姿か、それともまわるエリア順序の整理か。推し量ることはできない。

そしてランチングして気付くSHOの静かさ。火はすでに入っているというのに、湖上で普通に会話ができてしまうのだから恐れ入る。

初日19番スタートの橋本艇。プレーニングした後の加速は、水面スレスレを滑空する鳥のよう。走るというよりは、文字通り滑る感覚だったのが印象的だった。

増水した霞ヶ浦。
最終戦からそれほど日が経ったわけではないが、台風の影響は実に大きい。

「増水でシャローに入った魚を追いかけると、釣れるだろうけどそれだけで終わってしまう」と、沖側のストラクチャーを攻める。折々にネコリグやダウンショットを織り混ぜるが、橋本プロが投げるルアーの8割以上はハイピッチャーのヴィヴィッドパールホワイト。

takuya

風の強さや波の状態により、3/8ozと1/2ozをローテーションしてレンジの調整をすることはあったが、カラーも含めて文字通り徹頭徹尾(終始という意)スピナーベイターとして戦ったクラシックだった。

風が吹き出して且つローライトコンディション下、私は釣れるウェザーコンディションと合致しているのか質問をぶつけた。このときの橋本プロの返答がとても印象的だった。

「日が出たほうがバスは釣りやすいんだよ。バスはサンフィッシュ科の魚だからね。」

確かにバスはサンフィッシュ科の魚種であり、太陽光が届く範囲で生活する魚であることを考えると、シェードを好むと言われてはいるが、日が出たときの活動のほうが我々人間にとってはわかりやすいような気がする。橋本プロのバスに対する理解の一端を垣間見た気がした。

初日の本命エリアは小野川、古渡、大山水路。

futto

やることはどこも変わらず、ハイピッチャーの巻き倒し。とにかくタイトにキャストし、タイトにリトリーブする。言葉で表すとただそれだけだが、この日の橋本プロはリトリーブコースを担保するために、1日の7割から8割をバックハンドのロングキャストに従事。後で聞いてみたことだが、やはりストレスフルだったそうだが、ここは投げやすさに甘えるのではなくバスをキャッチする可能性を少しでも高くする方法を取る、プロアングラーとしての職人気質をヒシヒシと感じた。

初日の事件は、大山の水路で起こった。
通称、「ドブ」。

dobu_02

荒れた霞ヶ浦本湖とは違い、風も遮られて平和な水面。橋本プロは靴と靴下を脱いで裸足になり、寛いだ様子でボートを上流へ進めていた。

dobu_01

アイドリングで30分ぐらいは進んだだろうか。ふと前方を見遣ると、見覚えのあるフォルムが前方に見える。

・・・バスボート?

・・・赤羽プロだ!

こんなに広い霞ヶ浦なのに、こんなに小さな水路でバッティングするプロたち。それだけ選択肢が少なく、厳しい状況だということだ。

橋本プロはすぐに踵を返し、視界に入らない位置まで移動。そしてスピナーベイトを投げ始めた。

「こんな水路でも、目に付くようなストラクチャーにはバスは付きそうだけど、そういうのを狙ってもトーナメントじゃ勝てないんだよ。修弥さんなら根こそぎ釣っていきそうでしょ。特にクラシックみたいな重賞大会は勝たないと意味がないから、普通に釣って釣れる魚を狙っても他の人も同じように釣ってる可能性がある。だから、他の人が目を付けないようなパターンで戦う必要がある」

サンデーアングラーの私にはなかった未知の価値観だと感じた。

釣れる魚を追いかけるだけでなく、ほかの選手が振り向かない魚を捜すことが、トーナメンターには必要な要素だ、ということ。

魚の動きにだけ脳を使うのではなく、魚と人間の動きの両方に脳を回転させる必要があるということだ。事実、橋本プロはこの日の北東の強風の風裏になっているであろう東岸エリアには全く足を踏み入れなかった。それでもなお、今回のようにエリアのバッティングは起こるのである。トーナメントはこれだから面白い。トーナメントの魅力をまざまざと感じた、些細な会話だった。

 

結局初日は先に述べたハイピッチャーのバックハンドキャストを貫き、3匹のキーパーをキャッチ。ただしノンキーパーを含めると計5匹をキャッチした。午後になってから入った花室川は恐ろしく水が綺麗で、わずか30分の間に3匹をキャッチ(うち2匹がノンキーパー)と、若干ながら流入河川の可能性が感じられたものの、爆発力の確信には至らず。翌日のプランに不安を残しつつ、初日を終えることになった。

hanamuro_01

hanamuro_02

 

■2日目

草深プロの6キロ超の破壊力を受け、何とか一矢報いたいところ。
一方でフライト前の橋本プロは、思いのほかリラックスしているように見えた。

2日目のフライトは3番。橋本艇をもってすれば基本的にファーストポイントとして入りたいところはどこでも入ることができる。そしてフライトを迎えて船首が上を向いた瞬間、すぐにライトターン。向かった先は初日見向きもしなかった桜川だった。

台風通過後に真っ先に被害を受けるであろう流入河川。

初日の花室川の水質から、思いのほか回復が早いのではないかと目を付けていたとのこと。そして、他の選手はこの時期はやはり目を向けないのではないかと推測した、あくまで勝利を目指すトーナメンターとしての意気込みがそこにはあった。

桜川遡上中、後ろを振り返ると1艇のレンジャーが後を追ってくるのが確認できた。

また赤羽艇か?と思われたが、よくよく見てみると初日圧巻のウエイトを持ち込んだ草深艇。トーナメントリーダーとのエリアバッティングは状況的に最悪だが、狙うべきポイントが異なっていた(橋本プロは沖の沈みもの、草深プロはシャローカバー)ため、スポーツマンシップに則った紳士的なやり取りで航路を譲り合った。

橋本プロはバイブレーション、ミドルダイバークランクベイト、スピナーベイト、ヘビーキャロライナリグ、ダウンショットリグ、スモールラバージグと、さまざまなリグにローテーションした。いたらデカいはずのバスを1匹でもキャッチするため、あの手この手を尽くした。

しかし桜川は不発。2日目最初の目論見は、残念ながら結果を残すことができなかった。

桜川を離れ、手野の浚渫へ小移動。予報されていた風はまだ吹いておらず、湖面は穏やかな状態。橋本プロはここで大きく移動することを決断した。

BASSCAT PUMA×YAMAHA SHOはグングン加速し、サングラスだけでは目も開けられない速度まで到達。効率的なリギングがされたバスボートはこんなにも速いのか。私はゴーグルを車に置き忘れたことを深く後悔しながら、メガネのスエナガ製偏光グラスが飛ばされないことに、とにもかくにも注意を払っていた。

30分程度のドライビングだっただろうか。

橋本艇は恋瀬川に到着。

koise_01

ワカサギの回遊を期待してのエリアチョイスだった。河口から橋脚、上流へと流していった。ここでもかなりの時間を費やしたが、得られた答えはアシ近くの流れのヨレに通したハイピッチャーにストライクしたデカいキャットフィッシュのみ。それ以外は心を折るには充分なノーバイトである。移動を決断し、流しながら恋瀬川を下った。そして河口の橋脚にネコリグを投げた瞬間に同じ方向でボイル発生。ほどなくして1キロフィッシュがライブウェルに納まった。この時間、9:20。

koise_02

「ボイルパターンってこと?」

バスをキャッチできた嬉しさよりも、この後のプランがより難しくなるという悩みの方が大きかったのではないだろうか。
魚がいることはわかったうえで、スイッチオン状態であれば釣れることがわかってしまったからであり、少なくとも数々の繰り出した方法ではスイッチが入らないことも明らかだったからだ。

この後の橋本プロの選択は移動だった。移動を始めたときは園部川に行くつもりだったが、何かの啓示があったのか、素通り。到着した先は美浦の沖だった(園部川には鈴木プロが終日陣取っていたというのは、ウェイイン後に知ることになった)。

お叱りを覚悟で書くが、橋本プロの美浦の沖での数分間の釣りは、不自然なものにすら感じられた。前日も含め、その前のプラクティスからスピナーベイトを巻き続けているという。体が巻きのリズムに馴染んでしまっていた。捕らわれていた、と言ってもいいだろう。

「俺の釣りをしよう」

自信のある釣りを押し通すため、美浦を後にした。

この後は小野川の真珠棚、木原、大室とまわったものの、キャットフィッシュ以外の魚信もなく、橋本プロのクラシックは計4匹、3440gで幕を閉じた。

2日目ウェイイン

最後まで信じた自分の釣りについて、橋本プロは2日目、恋瀬川にいたときに象徴的な話をされていた。

「釣りが自分本位になっちゃうんだよね。若い連中は何でもやろうと、ライトリグで粘ったりもできるんだけど、俺は『ライトリグで釣れるならヘビキャロやヘビダンでも釣れるはず』って思っちゃうんだ」

何が何でも魚を集めてくる、という姿勢を批判するつもりは毛頭ない。しかし橋本プロの「自分本位」はトーナメンターとしてのこだわりであり、自分にしか釣れない魚を釣って勝つのだ、というコンペティターとしての自尊心だと理解できる。

残念ながら今年のクラシックは思うような釣果は得られなかった。だが想像してみていただきたい。誰もがやらないメソッドでキャッチしたビッグフィッシュをウェイインする橋本プロの姿を。そんな橋本プロの姿を見る日は遠くないことを、私は確信している。

WBSプロクラシックほどの重賞の大会でこのようにプロのトーナメントでの釣りを至近距離で見ることができる「プレスアングラー」という垂涎ものの制度のおかげでプロトーナメントへの関わりに対してのハードルも下がり、当然勉強にもなる。可能な限り、来年もまた参加させていただきたいと思っている。

ありがとうございました。

■プレスアングラー:西嶋 武寛

No Comments Yet.

Leave a comment

You must be Logged in to post a comment.