COLUMNSコラム

帰ってきた Cool Cool Phoo

●肥溜め

いきなりだが最近、肥溜めというものを見ない。

地方にはまだ存在するのだろうが、

我が家の地域、つまり多摩地区にはまず見当たらない。

私が小学生の頃は、そこら中にあった。

畑や田んぼが多かったからだ。

田んぼの脇に、1メートル四方位の大きさの穴があったが、それが肥溜めだ。

竹の杭が四方に立っており、目印になっていた。

 

肥溜めで思い出すのが昔、もう20年以上前の出来事、

旧吉野川に行った時のこだ。

某M氏の取材だった。

私ら取材班はM氏とともにクルマから釣れそうな場所を探していた。

そしてよさげなバンクを見つけた。

「よし、ここで釣りをしよう」

M氏らと私らはクルマを降りた。

私らはクルマからタックルを取り出して、いざ川辺に行こうとした。

道路から川までは草むら続いていた。

草むらと草むらの間には川辺に続くあぜ道があった。

M氏とカメラマンたちはあぜ道を通って川辺に向かった。

しかし、早く釣りたいとつんのめっていた私は草むらをショートカットしようとした。

 

そして一歩足を踏み出し、二歩目を出そうとしたとき、

一歩目がズボッと草むらにめり込んだ。

膝までめりこんだ。

そして二歩目はクルブシまで草むらにめり込んだ。

私は動けなくなった。

そう、そこは湿地帯、後で知ったことだが、

そこは肥溜めだったのである。

表面はただの草むらに見えていたのだが、下にはおどろおどろしいものが存在していたのである。

これも後で知ったことだが、

肥溜めとはいっても人糞ではなく、牛糞のそれだった。

旧吉野川近辺には、そういった肥溜めが多くあったようだ。

 

さて、右足ズボッ、左足ズボッと両足が泥濘に捕らわれてしまった私は身動きがとれない。

もがけばもがくほど下に潜って行ってしまう。

右手にはロッド、左手にはタックルボックスを持っていたので、手も使えない。

 

私がもがき苦しんでいるのを見て、

あぜ道を川に向かっていたカメラマンが救助にやってきてくれた。

幸い、肥溜めの手前でハマったので、

手を伸ばせば私に届いた。

カメラマンは、私のベルトの背中部分を掴んで、

一気に引きずり上げてくれた。

最初はなかかな上がらなかったが、

徐々に足が抜けて来て、ついには両足見事に抜けてくれた。

私の両足は、牛糞にまみれていた。

とくに最初に潜った右足は、膝から下が倍ぐらいの太さになっていた。

 

私はそのままあぜ道を伝って、川辺に降り、川の水で靴を履いたまま足を洗い、釣りをした。

旧吉野川での釣りは楽しかった。

 

そして帰り道、みんなでクルマに乗ったわけだが、

車中が牛糞の臭いで恐ろしいことになっていた。

やはり川の水で洗っただけでは、完全には綺麗にならない。

要するに臭くてたまらないのである。

 

その日は東京に帰る予定だったが、それではとても飛行機に乗ることはできない。

幸い、空港まで向かう途中にジーンズショップがあったので、そこでサンダルとジーンズを買った。

サンダルはそこで捨ててもらったが、

肥溜めにハマったジーンズはEVISUだったので、持って帰ることにした。

紙袋をもらってそこに入れた。

 

そして飛行機に乗った。

すると、どういうわけか、私の周りの乗客は、

鼻をヒクヒクさせて、

「何の匂いでしょうかね?」

と囁き合っていた。

 

私は申し訳なさと可笑しさでいたたまれなくなった。

匂うような思い出だ。

 

 

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