勝者は二人!
潮来マリーナに衝撃が走った、
史上初のフィッシュオフ!
歴史に残る大激戦
2011.W.B.S.プロクラシック レポート
事実は小説よりも奇なり、といわれる。
しかし、大概の出来事はある程度は予測できる。
だから、驚いたとはいっても、それは言葉の上だけ。
結末は想定内だ。
しかし、本当に予測不能のドラマが起こることもある。
そんな時、人間は意外に驚かないものだ。
というより、何が何だか分からないという反応しか見せられない。
ドラマを作った本人も周囲も、
ただただ口をあんぐりと開けて呆然とするばかりだ。
それが時間が経つにつれ、凄いことが起こったと理解する。
2011年のW.B.S.プロクラシックでは、
二人の男が凄いドラマを作った。
まさに
事実は小説よりも奇なり…であった。
●ドラマの序章・初日
戦いは最初から波乱含みだった。
初日の未明から、ただではすまない雰囲気が漂っていた。
激しく降る驟雨。
音を立てる風。
選手が集合するころ、
風雨はますます激しくなった。
排水が追いつかない。
潮来マリーナはまるでタイのバンコクのように水浸しとなった。
床下浸水寸前だった。
選手もボートのシートを剥がそうと家庭教師のようにトライするが、
思い直すものが続出。
レインギヤーは用をなさない。
ゴアもエントラントもあの雨にはお手上げ。
ビニール合羽に適うものはない。
それほどひどい雨だった。
「これはしばらく様子を見たほうが賢明」
本部も同意見。
夜が白み始めて、湖面を見れば激荒れ。
これは待機しかない。
しかし、雨が小止みになるとウズウズするのが釣り人。
とりあえずはドック内にボートを降ろして待機することとなった。
ただし、風は依然として強い。
再び、待機。
時はすでに7時半。
そして8時を少し回った頃、
風が弱まった。
雨も上がりそうな按配。
士気旺盛な選手がこのタイミングを見逃すはずはない。
試合決行!!
もちろん、選手・本部協議の上だ。
これなら注意を怠らなければ安全に試合を全うできる。
そう判断した上の決定だ。
ドック内のアプローチから湖上に出て行く各選手たちのボートは
やる気を漲らせて右へ左へとターンしていった。
すでに時計のハリは8時半。
いつもよりは2時間半ほど遅い。
しかし帰着時間も2時30分に延長された。
この決断がどう結果に出るか。
とにもかくにも2011年のW.B.S.クラシックは始まったのである。
奇妙なことに、選手が出て行った頃から、天候は急に回復した。
雨は完全に上がり、10時ごろからは日も射し始めた。
やがて半袖でも暑い夏日に。
なんという天候の激変だろうか!
折りしも霞ヶ浦水系はド減水の真っ最中。
これで少しは増水するかと思いきや、
それまでの減水を帳消しにするほどではない。
むしろ、流入河川の濁りや水温低下を招くことが懸念される。
そんな中、選手はどうゲームを作ってくるのか・・・
2時30分、初日のウェイインが始まった。
和田勝詳、エレキのワイヤーのトラブルで早めの帰着。
申告はゼロ。
トラブルでは仕方がない。
そこへ橋本卓哉がやってきた。
4本ながら3430g!
「釣れてるじゃん」
周囲はそう思った。
本湖の浚渫に回遊してくる魚をまとめて獲った4本の魚。
時合いが訪れた時は凄まじかったという。
7投してすべてにバイトがあったとか。
フックアップにいたらなかったものや、バレたものもあって4本。
驚異のラッシュである。
村川勇介もやってきた。
こちらも4本2710g。
今年のA.O.Y.として恥ずかしくない試合を見せたい
という気持ちはいたいほど分かる。
12時ごろまでノーフィッシュだったが、
我慢に我慢を重ねて東浦で固めた。
バイトはもっとあったようだが4本。
「ミスが痛いっス」と唇を噛んだ。
しかしスタートとしては悪くない。
成田紀明は2本ながら2380gと「出ればデカイ」釣りでまずまず。
剛腕・蛯原英夫も本湖東岸のヒシモを攻め抜いて3本2370g。
グローブライドの若武者・金光忠実は
貸し切のスノヤハラで増水後のベジテーションをテキサスで撃って3本獲った。
しかし、これら以外の戦果は悲惨だった。
狩野敦、赤羽修弥、渡辺尚昭、麻生洋樹、小島貴らが続いたが、
いずれもロースコア。
小田島悟の
「朝のプライムタイムに釣りができないとちょっとね」
というコメントが釣果を弁明していたといえる。
しかし、大雨、大風、その後に夏日が来るという
不規則な天候では魚も落ち着かず、
どうしていいかわからなかったことだろう。
何より大雨により各地で水が濁ったことが条件を悪くさせたことはいうまでもない。
それにしても初日の小田島のスコアは2本1330g、
清水綾にいたっては1本650gである。
本人たちも「終わった」と思ったことだろう。
しかし・・・・・・
ドラマの布石がここに隠れているとは、
神のみぞ知る事実であった。
初日のトータル釣果は32尾。
21名で32尾……
多いとは決していえないだろう。
リミットメイカーもゼロ。
今年のクラシックは実にタフな幕開けだった。
この日のビッグフィッシュは玉造の杭から
クリスタルSで獲った麻生洋樹選手の1530gが獲得した。
麻生選手TackleData
ROD:Nories ロードランナーハードベイトスペシャル630LL
REEL:Daiwa ピクシー
LURE:Nories ディーパーレンジ
LINE:EverGreen バスザイルR 10lb
さて、W.B.S.クラシックといえばパーティーが売りのひとつである。
今年は潮来ホテルで開催されたが、
いつも以上に華やかな宴となった。
ご協力いただいたメーカー様には、
この場を借りてお礼を申し上げたい。
雨もすっかり上がった22日の夜。
選手、プレス、スポンサー各位、スタッフらは、
早めに布団に入った。
日曜の朝も雨が降るという不吉な予報もあったが、
土曜の朝の雨を経験すれば、どのみち大したことはない。
今年のクラシックチャンピオンは誰になるのか、
みんな、最初は寝返りを繰り返していたが、
やがて子供のように静かな寝息をたて始めた。
ドラマの幕切れ・最終日
憎たらしいことに天気予報は大当たり。
未明から雨だった。
しかし寒くはない。
前述のように初日の豪雨に比べたら赤ちゃんのお小水程度。
みんなヤル気十分に潮来マリーナに参集してきた。
幸いなことに風はない。
これならスロープを使える。
通常通りにスタートできる。
W.B.S.選手にとっては今年最後の一日。
可能性は誰も捨てていない。
ファイナルデーを納得行く一日にすべく、
乾ききっていないレインギヤーに袖を通した。
すると、雨も上がった。
最終日におけるモヂベーションを下げるものは何もなくなった。
あとは精一杯やるだけだ。
急く心を抑えてのスタートが終わったのは6時。
前日より2時間早い。
しかし帰着は1時30分。
前日より一時間早い。
予報では午前中から陽が出るとのことだったが、
曇り空は相変わらず。
しかも風もやや強い。
5gのシンカーではちょっとつらい感じ。
初日におあずけをくらった朝のプライムタイムを選手たちが満喫している頃、
富士見池ではグランプリが開催され、
多くの岸釣りアングラーが今年最後のイベントを楽しんでいた。
我々取材班は
潮来を出て牛堀、麻生、玉造、
霞ヶ浦大橋を渡って柏崎、恋瀬川、桃浦、
再び大橋を渡り柏崎へ。
それから西浦、土浦、桜川、小野川、スノヤハラ、北利根・・・
大体こんな感じでエリアを一周した。
行程約150キロ、
所要時間4時間。
実に興味深い旅であった。
印象としてはかなり渋い感じ。
曇天が暗いイメージを植えつけるのだろうが、
選手の必死な形相が悲壮感を醸し出していたから
「釣れていない」方向にベクトルが働いたのだろう。
だが実際は・・・・・・
10月23日午後1時30分。
運命の最終日ウェイインが始まった。
最初にやってきたのは小田島選手。
飄々とバッグを用意する。
硬さはまったくない。
しかし、バッグに入れた魚の数は5本!!
ついに今年のクラシック初のリミット達成である。
ウェイトは3940g!!
トータル5270gで橋本卓哉のウェイトを超えて暫定トップに立った。
サインとリリースを終えて暫定トップ席に座る。
しかしなんといっても2日目最初の選手である。
続く選手は20名。
橋本卓哉も村川勇介もいる。
盟友の剛腕・蛯原英夫もいるのだ。
「すぐに代わるんでしょ?」
小田島がそう呟いたのも無理はない。
さらにウェイインは続く。
出村輝彦だ。
初日はデコった選手である。
ぞがなんとっ!! 5本の魚を引っさげてやってきた。
ウェイトは4520g!!
結果的にこの日2番目の成績である。
スロープの桟橋近くでシャッドラップラパラをトゥィッチして獲った5本。
炊いたガソリン0リッター。
これだから釣りはわからない。
出村選手はこの数字だけで4位に入ってしまった。
初日ゼロからの挽回である。
と、ということはこの後、好ウェイトはゾロゾロ出てくる。
もうすぐ暫定トップ席から追い出される。
小田島選手がそう思ったのも理解できる。
そこへやってきたのがドクター清水綾選手。
こちらのウェイインバッグにも5本の魚が。
サイズも悪くない。
計ってみれば
4620g!!
破壊的な数字である。
小田島選手は観念した。
しかしトータルは5270gで同じ。
なんとっ、この時点で二人が暫定トップ席に座ることになったのである。
だが、まだウェイインは半ばを過ぎただけ。
繰り返すが橋本、村川、蛯原らの初日に釣ってきた選手が待っている。
そこへ観戦に来ていたBプロの鯉川君がやってきた。
「小田島さん、タックル、片付けておきましょうか?」
「ああ、頼むよ」
ずっと暫定トップ席に座っていたので片付けができない同選手は
そういって鯉川君に頼んだ。
その後、ウェイインは順調に進んだが、
初日の出遅れを取り返せない選手が続いた。
渡辺尚昭選手は4本2890gと健闘したが届かない。
狩野敦選手も大魚をバラして只の人となってしまった。
小島貴選手もビッグフィッシュを持ってきたが2本止まり。
しかし土浦付近でスピナーベイトで獲った1470gは
2日目のビッグフィッシュ賞に輝いた。
小島選手TackleData
ROD:ベイトロッド ミディアム
REEL:Daiwa TD-Z
LURE:O.S.P. ハイピッチャー3/8oz
LINE:SunLINE FCスナイパー 16lb
メインエリア:西浦ランガン!
今回の肝:巻きまくり!
さあ、いよいよ最終日のウェイインも佳境に入った。
橋本卓哉選手の入場である。
なんたって初日トップのこの選手の破壊力は折り紙つき。
2kg近く持ってくれば逆転する。
ギャラリーは橋本選手の雄叫びを期待した。
だが……
橋本選手の口から聞こえてきた言葉は
「やっちゃいました」
の一言だった。
2日目も浚渫ブレイクで魚を固めたかったが、
沖は音なし。
少しの増水で魚はシャローに移動してしまったか。
タクヤ、まさかのノーフィッシュ。
暫定トップ席は変わらず。
そして村川選手が・・・。
今年のA.O.Y.である。
初日も2位に付けて来た。
「秋に強い男」の逆転劇か。
周囲はそう感じた。
ボート上に仁王立ちの村川選手。
そしてウェイインバックに手を
↓
↓
↓
かける素振りを見せた。
しかし、それは空しいフェイント。
なんとっ!! 村川選手もノーフィッシュだったのである。
騒然とするステージ前。
この試合、一体どうなってしまうのか!!
昔のTBSガチンコを思い出させるフレーズがあちこちで聞かれた。
この日も東浦をキーエリアに釣りを組み立てた同選手。
初日のラッシュが12時頃からだったので、
朝方釣れなくても少しも慌てずに時合を待ったが、
神は微笑んでくれなかった。
エリアには風が強く、かなり釣りにくい状況だったことは確か。
選手の中では一番手ごたえを掴んでいたように見えたので、
本人もかなり残念そうであった。
そしてウェイインもあっという間に最後の選手に。
いわずと知れた蛯原選手である。
ギャラリーはドラマの成り行きを読んだ。
「なーるほど、ここで剛腕・蛯原選手が逆転で二人を交わす」
良くできた結末じゃん。
本人の蛯原選手がそう思ったかは知らないが、
とにかく魚をライブウェルは取り出し始めた。
1尾、2尾、3尾、4尾……
そしてニヤッと笑った同選手は、そこでボートを降りた。
「オオッ!! 魚は4本」
果たして暫定トップの二人を超えられるのか!!
超えなければ、史上初のクラシックにおけるフィッシュオフである。
以前にも増して場内は騒然としてきた。
「2910gでトップが代わります」
ドンキホーテで買ってきた蝶ネクタイを締めたMCが叫ぶ。
魚は静かにスケールに載せられた。
デジタル表示が隠された。
魚は動きを停めた。
隠された表示が取り去られた。
スケールに表示された数字は・・・・
2640g!!
一瞬の静寂の後、潮来マリーナは大騒ぎとなった。
フィッシュオフ、フィッシュオフだ。
その騒ぎを見て悔しそうな表情を見せる蛯原選手。
3位決定だ。
2日目も初日同様霞ヶ浦本湖東岸のヒシモを攻めて、
自作のリーダーなしのダウンショットで着実にキーパーを重ねていったが、
一歩届かなかった。
リグは発売間近のキッカーバグ。
ロッドのエアリーフリップも大活躍したようだ。
蛯原選手TackleData
Tackle1
ROD:EverGreen ヘラクレス エアリーフリップ
REEL:Daiwa STEEZ 103HL
LURE:EverGreen キッカーバグ
LINE:EverGreen バズザイルマジックハードR 16lb
RIG:ヘビダン(7g) リーダーなし
Tackle2
ROD:EverGreen ヘラクレス レッドマイスター
REEL:Daiwa STEEZ 103HL
LURE:EverGreen D-ZONE 3/8oz スーパーチャート
LINE:EverGreen バズザイルマジックハードR 14lb
メインエリア:本湖東岸、菱藻
フィッシュアフの説明を受け、
気持ちの整理もそこそこにスタートの準備をする二人。
小田島選手は鯉川君が片付けたタックルを再び引っ張り出して準備した。
そして2時42分、
一時間のフィッシュオフが始まった。
二人が選んだエリアは期せずして同じ矢幡ワンド。
二人とも2日目の帰着間近に入れ替えしたスポットなので当然だろう。
ロングドライブをかましている場合ではない。
ワンドの左を清水選手が、
右の奥、バンブーフェンスを撃つ小田島選手。
秋の陽が傾いた頃、
矢幡ワンドではクラシックチャンプの座をかけた
静かな戦いが繰り広げられていた。
その頃、潮来マリーナでは恒例のファンサービスが行われていた。
1時間なんてアッという間だ。
二人が帰ってきた。
さあ、どちらか魚を持ってきたのか??
二人ともノーフィッシュならタイスコアで優勝を分け合う。
満場が聴視する中、
ステーシに上がる二人。
しかしその手にバッグはなかった。
こうして、W.B.S.クラシック史上初のフィッシュオフは終わりを告げた。
そして小田島、清水両選手が2011年のクラシックチャンプに輝いた。
二人の戦いぶりはこうだ。
まず小田島選手。
二日間とも霞ヶ浦本湖東岸のヒシモエリアがメイン。
根っこが切れた部分にテキサスリグをスイミングさせるというもの。
晴れるとよくないこの釣りなので初日は思わしくなかったが、
ローライトの2日目は9時には揃って入れ替えに走り、
最後に前述のように矢幡で入れ替えた。
小田島選手TackleData
Tackle1
ROD:EverGreen ヘラクレス エアリーフリップHCSC-75MH
REEL:Daiwa STEEZ 103HL
LURE:ZBC スピードクロー
LINE:EverGreen バズザイルマジックハードR 16lb
RIG:テキサスリグ
Tackle2
ROD:EverGreen ヘラクレス ブルーマイスターHSCS-67MH
REEL:Daiwa STEEZ 103HL
LURE:GaryYAMAMOTO フラッピンホグ
LINE:EverGreen バズザイルマジックハードR 16lb
RIG:テキサスリグ
Tackle3
ROD:EverGreen ヘラクレス エアレギウスHCSC-70ML
REEL:Daiwa PX-68L
LURE:ZBC フィネス
LINE:EverGreen バズザイルマジックハードR 10lb
RIG:ネコリグ
メインエリア:玉造
今回の肝:平常心、テキサスリグのスイミング
一方、清水選手は
小田島選手と同じく霞ヶ浦本湖東岸で魚を確保してきた。
いつもはフッァトヤマセンコーのテキサスをマネーベイトにしているが、
今回はスピードクロー。
7gスピードクローを泳がせ、
枯れたウィードとかに引っ掛けているとラインが走るという釣り。
水が悪いので、アピールする為に、はさみを黄色く塗ったりする小技も冴えた模様。
「東岸に入った時点で、小田島さんが釣っているのを見たので、
みんな釣れているんだろうなと思ってたんですが・・・。
こんな結果になってビックリしています」
と素直に印象を語っていた。
清水選手TackleData
Tackle1
ROD:DAIKO アディクト 65M
REEL:ベイトリール
LURE:ZBC ウルトラバイブスピードクロー(グリーンパンプキン)
LINE:SunLINE FCスナイパー 16lb
RIG:7gテキサスリグ
メインエリア:小高干拓のすぐ北側
今回の肝:菱藻から離れて、スクールしている魚を
タイミングにあわせてまとめて釣れたこと
こうして史上初のドラマチックなフィッシュオフの結果、
二人が優勝を分け合うというカタチで
今年のクラシックは幕を閉じた。
初日の暴風雨、ディレイドスタート、
フィッシュオフなど、話題にこと欠かない試合だった。
ベスト3がみんな霞ヶ浦本湖東岸から魚を持ってきたことも印象的だった。
ウェイトは必ずしも景気のいいものではなかった。
だが、手に汗握るいい試合だったことは間違いない。
フィッシュオフに出て行く2艇のボートを見送る選手、ギャラリーの拍手を聞いて、
久々に感動させてもらった。
二人だけで勝負できるフィッシュオフ。
それに参加できることは男冥利に尽きるといえる。
ていうかW.B.S.クラシックに出ることですら、
男冥利に尽きるというものである。
来年も白熱したシーズンの後に、
今年のような素晴らしいクラシックを見せてもらいたいものである。
レポート 大和小平(やまとしょうへい)