塾長・山田貴之
ビッグタイトル獲得で
見事に演じた男の生き様



2008年W.B.S.PROクラシックレポート


W.B.S.トーナメントツアーの総決算、クラシック。
それは年間チャンピオンと並ぶ、
W.B.S.の2大タイトルとして
全選手の目標となっている大試合。
出場できるだけでも名誉な価値ある戦いである。

今年17回目を迎えたこの試合に参加資格を得たものはわずか23名。
年間ランキング20位以内、
スーパー3デイズ、ベスト3
そしてディフェンディングチャンピオンのみが
今年の霞ヶ浦水系でラインを濡らすことが出来たのである。

当然、全選手勝つことだけに焦点を絞り、
ウィニングパターンを組み立てる。
クラシックで着を拾っても何の意味もない。
歴史に名を残す「クラシック・チャンピオン」という
栄光だけを求めて奮闘するのだ。



歴代チャンピオンの顔ぶれを見るだけで
選手が武者震いを隠し切れないのは、
この試合が
出場する選手のレベルの高さ、
トーナメントフィールドの広大さ、
レギュレーションの厳格さなどで
男が情熱を傾けるに足る唯一の機会だと知っているからだ。



大会初日の10月11日。
土浦新港の空には星は見えない。
漆黒の闇の中にも曇天がみてとれる。
しかしそれはやがて小雨に変わり、
そして時折強く降る本降りとなった。
今年のクラシックの行方に波乱を思わせる序章である。

振り返ってみても
よく釣れていた9月末のW.B.S最終戦あたりを境に
霞ヶ浦水系は急激にタフウォーターと化してしまった。
直前には雨、水温低下、減水などのマイナス要因が重なり、
プラクティスを繰り返せば五里霧中に陥るばかり。
結局、フタを開けてからの状況にアジャストするしかないという、
真の実力が試される試合となったのである。

そんな大舞台の初日に絶好のスタートを切ったのは
平本直人選手。
今年後半から好調をキープしている選手で、
非常に楽しそうに釣りをしているのが印象的。
桜川下流と本湖下流域を軸に順調にリミットを重ね、
3,590gとトップウェイトで折り返した。



続いたのがルーキーの盛隆弘選手。
強豪相手に胸を借りる態度が奏功して3,490gの2位。



そして初日3位は「ミスター・ロールキャスト」香取潤一選手。
北浦まで走っての3,360g。



さらに同じ方向に走った西村嘉高選手は
表層系のルアーでフィーディングバスを捕らえて3,340g、



本湖下流域のベジテーションエリアにフォーカスした村川勇介選手も
同じく3,340g。



このように初日は3kg台に多数の選手を擁するというダンゴ状態を呈した。

豪腕・蛯原英夫選手は得意の古渡をメインに3,330g、



桜川でビッグゲインを狙った今年のA.O.Y.赤羽修弥選手は3,300g、



さらに恐怖のB.B.max木村信一選手も花室、桜で固めて3,260g、



プラキング・小島貴選手も桜一本勝負で3,140gと



3kg台に9人の選手が僅差で並ぶ激戦となってしまったのである。

それだけではない、10位の成田紀明選手、



11位の山田貴之選手も2kg後半。



トップとの差も1kgを切る僅差。
史上まれに見る混戦の初日となった。

これではリードはあってないようなもので、
ほぼ半数の選手が一からのスタートをきるような、
いわばフィッシュオフのように最終日を迎えるハメになった。
天気予報では初日の曇り系から晴れ系に変わるとのこと。
その辺の状況変化もどう結果に影響するか、
非常に楽しみな展開となった。

なお、初日のビッグフィッシュ賞は
渡辺尚昭選手が崎浜の杭群から釣り上げた1,890gが獲得した。



あらゆるリグを動員して攻め続けたスポットだったが音なし。
最後の最後に投げたスピナーベイトにビッグフィッシュが反応した。
いわば粘り勝ちである。
掛けた当初はそれほど大きくなかったと思ったので、
躊躇なく抜き上げたというが、
1,890gを抜き上げるというのもかなり大胆である。

渡辺選手TackleData
Tackle1
ROD:EVERGREEN TEMJIN エアレイド
REEL:Daiwa TD-Z103H
LURE:3/8スピナーベイト
LINE:TORAY BAWO ポリアミドプラス


さて、W.B.S.クラシックといえば初日の夜に行われるパーティーが有名。



翌日も試合があるので早めに中締めになるが、
スポンサー様各位からのビッグプレゼントなどもあり、





過激に盛り上がる夜となる。
このひと時のためにクラシックを目指す選手もいるほど。



まさに選ばれた者にだけ与えられる名誉と実利がクラシックにはある。





そんな心地よい酔いも、2日目の朝にはすっかり醒めてしまう。
朝の3時にはトーナメントモード充満で
戦う男たちは起きるのである。

前夜、愛を交わした二人でも、
朝を迎えると異質な生き物になる。
女は余韻に浸るが、
男はさっさと仕事モードに切り替わる。
それでなければ厳しい競争社会を生き抜いて行けないのである。
(余韻に浸る男も、まれにはいる)

2日目の未明に空を見上げれば、そこにはくっきりとオリオン座が見える。
プラネタリウムで習った三ツ星も見える。
さすがに土浦は田舎だ。
八方尾根のようによく見える。

ということは晴天。
おそらく風も吹くだろう。
事務所から新港に向うクルマの中で聞いた79.5では、
「大宮は歩けないほどの風が吹いている」とのことだった。
(結果的にはまったく吹かない夏日となった)



初日の曇り〜小雨〜本降りという状況からは激変することは確か。
おまけに強烈に寒い。
いわゆる放射冷却ってヤツで、
水温を下げることも必定で、タフコンが約束されたようなもの。
などなど、難解なパズルが全選手の前に立ちはだかった2日目となった。

前述のように上位、中位の選手間のウェイト差はそれほどない。
つまり多くの選手に逆転のチャンスが残されている。
逆にいえばリードはあってないようなもの、
あるとしたら岡山のショップだけだ。



そんなことは戦う選手の方が良く知っており、
23名のつわものは、雌雄を決すべく、思い思いのスポットにバウを向け、
5時50分、スタートしていったのである。

案の定、2日目の釣果はガクンと落ちた。
結果を先にいうと初日のリミットメイカーが9名いたのに対し、
2日目はわずか2名。
競技時間が多少短いという理由もあるが、
状況が難解になったことが大きな要因だろう。

選手は口々に
「昨日より全然難しくなった」
と嘆いていた。

だが、ひとりだけそんな様子を見せない男がいた。
逆の意味でのKY。
初日2,600gで11位だった山田貴之選手である。

山田選手は今年の最終戦で20位に滑り込み出場権を獲得した男。
過去にはクラシックを勝っているが、
最近はやや調子落ちでモチベーションも下がり気味だった。
試合翌日の13日にはシマノ・カワハギグランプリ大会に出場を決めており、
そっちの方に神経が傾いていたことも確かであった。

だがそこは釣り人。
ロッドを握れば本能が目覚める。
5kgを目指しての奮闘が始まった。

妙義、花室川、桜川と、
エリアとしては初日と同じだったが、
初日に泣いたミスがゼロになったことで、
リミットメイクの4,260gを持ち込んだ。
二日間を通して最大のウェイトである。



当然、山田節は全開となった。

「今日は無欲の気持ちで出て行きました。
ぶっちゃけ5キロを狙って、強い釣りを推し進めようとね。
昨日2匹ミスして、デッキにぶつけて逃がして。
魚は浮いてて、口を使わない。
練習をやるごとに、日に日に口を使わなくなる。
晴れて凪になると、つんとバイトがやってくるという中で、
本湖は状況が変わりすぎるんで捨てまして、
俗に僕のお庭、妙技水道。桜川、花室の3箇所。
最初は妙義で、北よりの風が吹いてまいしたよね。
朝一だけ口使うところがあったんで、
10投で、2匹。
駆け上がりに面した鉄杭をダウンショットワッキーでね。
フォールで喰っていました。
その後、花室川に行きました。
入ってすぐのゴミ溜り。
30〜50cm落としたところで、スイミングさせる。
3秒ぐらい動かして、同じ高さをすーっとね、
横にゆっくり動くものには反応するんですよ。
あげたり下げたりすると重さがフッとなくなる。
で、走らせてあげて、横にあわせるとバレて、上に掛けると乗る。
次の橋ではまるっきり食わず、
やめようと思ったところ3匹パタパタと釣れて。
それで終わりでした。
使ったワームは張りの強いワーム、エコギア、パワーストレート5インチ。
あれが一番張りがある。
張りがいらないときには、ジャッカルのフリックシェイク4.8
最後にガルプのワッキークローラー。
この三つを気分で使い分けました。
帰ってきたとき3キロちょいと思っていたんで、
優勝するとはね・・・



スポンサーの方々へ。
本当にもう、うだつが上がらない男ですが、
付いてきていただいて。ありがとうございます。
また選手の皆が頑張ってるから、僕が頑張れる。
皆さんも47歳まではやるんですよ。
アリガトウございました」

これでもほぼ1/3に凝縮した内容である。
なお、2日目の10投目に来た1,370gはビッグフィッシュ賞を獲得した。



山田選手TakcleData
Tackle1
ROD:G-Loomis IMX 782
REEL:Daiwa リベルトピクシー
LURE:ECOGEAR パワーストレート5inch
LINE:VARIVAS GANOA 10lb
RIG:5gダウンショットワッキーリグ




こうしてベテラン山田選手が暫定トップ席に腰を据えたわけだが、
山田選手としてはすぐに交替できるだろうと思っていた。
だが、後に続いてウェイインした選手が誰も山田選手を抜けない。

初日トップの平本選手、
2位の盛選手、
3位の香取選手、
4位の西村選手などは
勝ちに行って玉砕した。
赤羽選手もダメ、
木村選手も5本揃えてきたが届かず、
小島選手もアウト、
狩野選手は15キロの







レンギョを釣ったが、
それは対象外。



それでも初日4位タイの村川選手は、
同じエリアにスッ飛んでいって粘り切り2,890gと帳尻を合わせた。
しかし山田選手を抜けない。
結果的に3位入賞である。



「2日間、本湖の下流を釣りきりました。
水の良いところを探していったら、草系というか、ヒシモとか、
ベジテーション、それ系の中だけ水が良かったんで、
それを一生懸命テキサスリグを落とすという釣りです。
霞の表情が厳しいものだったんで、とにかく5匹釣ろうと。
リグはテキサスだけですね。
昨日が、5gのロッククロー
今日は晴れたんで、朝一1匹しか釣れなくて、
10時に、リアクションで、落としてつんつんとやって、
強引に口を使わせるとなんとか釣れました。
来年はもうちょっと頑張れるように修行したいと思います」



村川選手TackleData
Tackle1
ROD:G-Loomis 783
REEL:Daiwa STEEZ103H
LURE:ECOGEAR ロッククロー
LINE:DUEL ハードコアXX 12lb
RIG:5gテキサスリグ(ZAPPU SUPER すりぬけ5g使用)

Tackle2
ROD:Nories 680H
REEL:Daiwa STEEZ103H
LURE:ECOGEAR ロッククロー
LINE:DUEL ハードコアXX 14lb
RIG:10gテキサスリグ


また、豪腕・蛯原選手も2日目3,350gと、
わずかながら初日を上まわりトータル6,680g。
山田選手にわずか180g足りずに準優勝に終わった。



「プラからいい感じで、5kg近いプラが出来てて、
本湖と北浦です。
1日ずつプラして、北浦より本湖の方が大きいかなと、
2日間本湖勝負とハラを決めました。
で古渡に行きまして、初日、
かなり苦戦して、1本しか釣れず、
11時ぐらいまで1本で。はい。
東岸に渡って、東岸で見つけたエリアあるんですが、そこに入って。
シャローだったんですが、増水だったんで、
ベイトがいたのを確認していたんです。エビです。
それがいなくなって、やっぱりと思って、
どこに行ったかと探したら、ちょっと沖目の杭でした。
そこを打ちまくってなんとかスコアをまとめました。
今日は自信をもって、そのパターンでいったんですが、
朝パンパンパンと3本とって、その後音なしで。
対岸の古渡に渡って1本小さいのを釣って終わりました。
でも、練習でつかんでいた釣り方がキーになりました。
本湖の魚は浅いところ、1mチョイぐらいの表層で食ってくるんです。
そこをちょっとスイミングさせるような感じで、
ポーズできる、一瞬止めることができるようなリグがキモでしたね。
テキサスだと、追ってくるけど食わない。
そこでチョイスしたのがバークレーのファットドーバー、ネコリグ。
カバーの手前ではそれを撃つ。
奥を、名古屋のサトシンさんのワーム
Sストレートというんですが、
それがネコリグをオフセットで掛けられるんですよ。
それで、カバーを打つというローテーションでいきました」



蛯原選手TackleData
Tackle1
ROD:EVERGREEN ヘラクレス ブルーマイスター
REEL:Daiwa STEEZ103HL
LURE:Berckley ファットドーバークローラー&エスストレート
LINE:EVERGREEN バスザイル マジックハードEX16lb
RIG:ネコリグ

Tackle2
ROD:EVERGREEN タクティクス テンペスト
REEL:Daiwa STEEZ103HL
LURE:IMAKATSU ダイナゴン3.5inch
LINE:EVERGREEN バスザイル マジックハードEX16lb
RIG:ノーシンカー

こうして今年のクラシックは
参加選手中最年長の山田貴之選手の優勝という結果で終わった。
思い起こせば昨年のチャンピオン・中村雅晴選手も
最終戦でランキング20位に滑り込み、
ギリギリで出場権を獲得したあげくのチャンピオンだった。
今年の山田選手とまったく同じである。



ということは山田選手、
順当に行けば来年のバサー・オールスタークラシックに出ることになる。
カワハギなんか、やっている場合ではない。
まあ、山田さんのトークなら大丈夫だろうが、
霞の塾長としての貫禄も見せて欲しい。



いずれにせよ、今回の勝利は誰に対しても誇れるもの。
実力で勝ち取ったものだ。
「日本のデニー・ブラウワー」山田貴之選手の健闘を心から称えたい。


追伸:ライフジャケットのボンベは確認しておきましょう。




スタッフの皆様、関係者の皆様、今年一年、ご苦労様でした。


レポート・大和小平(やまとしょうへい)