2010 W.B.S.プロクラシック19


山本 寧 プレスアングラーレポート 初日 伊藤 巧 



朝、山本寧さんのボートに、プレスとして乗る事が決定しました。
山本さんの表情を見ると、非常に気合いが入っている様子。
話を聞いてみると、プラクティスの日数が少なかった為に、
ラン&ガンスタイルで本湖勝負をするとのこと。
事前情報が少ない中で、
トーナメンターがその日にパターンを見つけ出す事は、
本当の実力が試されるという事…
どのような一日になるか非常に楽しみでした。

スタート直後、境川河口付近の杭に入り、
手にしたルアーはオーバルヘッドジグ3/8oz+エスケープツイン。
杭の横をスイミングで誘うと、
直後に山本さんのロードランナーが曲がりました!
瞬時に抜きあげたバスはナイスキーパー!



朝一からリズムを作る一匹。だが後が続きません。
そこで、一匹目をキャッチしたエリアを切り捨て、次のエリアへ。

ジャカゴのインサイドにあるヒシモに、
エスケープツインのテキサスリグを音も無くピッチング。
まるで置いているかのように着水音のないキャストだな~・・・と驚いていると、
「カメラの準備した方がいいよ」と言い放ち、フッキング体制に入りました!

バシッ! キロアップのバスをカバーから引き離し、
一気に抜き上げます!



フッキングからランディングまでの一連の動作に無駄がなく、
なるべくバスが水中にいる時間を少なくするテクニックを
目の当たりにすることができました。
これがトーナメンターの真髄・・・そんな気がしました。

そして、驚いたのがこのエリアでも粘らずに、すぐ移動!
さまざまなエリアをラン&ガンしながら、
到着したのは風をさえぎる葦際。
チョイスしたルアーはエスケープツインのテキサスリグ。
着水音のないピッチングを繰り返します。
すると、答えはしっかり返ってきました!
フッキングと同時に一気にカバーから引きずりだし、なんなくキャッチ。

その直後またも移動。
同じシチュエーションの葦際に入ります。
「普段、ここの葦際はやらないけど、
今日の状況なら葦際は生きているね。もしかしたら釣れるかも・・・」
と山本さんが言うと、ピッチングで探って行きます。
普段やらないエリアを試合中にやるという事は、
非常にリスキーであります。
この選択は確固たる自信がなければ、出来ない事だと感じました。
そしてその自信が、山本さんにはあったという事でもあります。

宣言通り10分も経たずににフッキングに入りました!
キャッチした魚は700gクラス。
「あと一本・・・」といいながら終了時間40分前。
ここで粘ると思いましたが、またしても即移動。



入ったエリアは朝一の境川河口の杭。
聞いてみると、朝一にしっかり魚をストックしており、
ベイトの量もいたことから
魚が入りなおしている可能性が高いと推測したとのことでした。

連発した葦際のパターンがありながら、
残り時間を考えてのエリア選択なのか、
プレスで乗っている私には解らない山本さんの戦略があったのでしょうか。

杭打ちにシフトしました。
ルアーはガンタージグフリップ3/8oz+エスケープツイン。
丁度、五本目の杭を打ち、スイミングを始めた瞬間、
ロッドが絞り込まれました。でかい!



丁寧にハンドランディングした魚は、紛れもなくキロフィッシュ!



本当にしびれた魚でした。
山本さんも言葉が出ない様子です!

このラン&ガンで得た5バイト全てのフッキングを成功させ、
確実にバスをキャッチする山本さんを見て、
プロトーナメンターの底力を感じました。



試合中の釣れない時間も集中力が切れることなく、
エリアに気を配りながら自分のおこなっている釣りが正解かどうか、
いち早く検証判断していく姿は、
一生私の記憶に残ることになるでしょう。
山本さん一日有難うございました!





二日目   プレスアングラー 片桐聡一

ジャンクフィッシャーマンが魅せたパーフェクトゲーム

「いやー、なんか楽しくなっちゃって
トーナメントだってことを忘れてたよ」。
時刻は11時を回った頃、
本湖東岸ジャカゴのインサイドで
テキサスリグをスイミングさせていた山本が、
ふと手を止めて口にした一言だ。

ライブウェルの中にはジャストキーパー2匹を残していながらも
リミットメイクとなる5匹が泳いでいる。
依然、勝利を確信するには心許ないスコアではあったが、
程良い緊張感の中にありながらも
リラックスしたムードを保ち続ける後ろ姿に、
「勝つときというのは、きっとこんな流れなのだろうな」
と予測させるには充分な言葉であった。
 
クラシック初日に手にしたバスは5匹ちょうどで4120g。
「まったく余裕なんてないよ、
昨日もさんざん走り回ってカツカツの5匹だし。
今日は今日の魚を探していくから」

そう言ってフライトを迎えた山本は参加選手20人中、
唯一ステアリングを左に切って境川河口にある乱杭へと入った。



「昨日の朝一も3投目ぐらいでいい魚が釣れたんだ。
ワカサギが寄り始めてきてるから、
それにつられて入ってきたバスがいるんだよね」
水面にはワカサギのつくる波紋がいくつも見られる。
前日は魚探に映る程度だったそうだが、
今日は低気圧の接近によってか
ワカサギのレンジも浅くなっているのだろう。
山本はスピナーベイトを手にし、
スイミング、リフト&フォールなどで、杭1本1本をチェックしていった。
が、バイトを得られないためにフットボールジグへとローテーションする。



オーバルヘッド3/8ozにエスケープツインという組み合わせなのだが、
ボトムを這わせるのではなく、
中層をフワフワとスイミングさせる使い方がメインだ。
「ワカサギを食ってるからワカサギのシルエットに似せて
というのもアリなんだろうけど、
ルアーってそれだけじゃないと思うんだよね。
バルキーなボリューム感でありながら、
スッと抜けるようなアクションが昨日からいい感じなんだけど・・・」
ほとんどの杭を撃ち終わり、
ファーストエリアは不発かと思った瞬間にロッドが弧を描く。



躊躇することなく一気に抜き上げ、
宙を舞ったバスは余裕のキロアップだ。
「ほら、やっぱりここはデカいんだよ! いい魚が入ってきてるね」。
厚い雲の隙間から朝日が差し込む午前6時42分、
これがパーフェクトゲーム達成への第一歩となった。



その後、同様に杭を狙っていくが後が続かないために移動を決意する。
「麻生・玉造に行く予定だけど、
途中で気になる所を何カ所かチェックするから」
プレーンを解いたのは、昨日もバスを手にした西浦のワンドだ。
「ここは風が吹いてからが勝負なんだけど、
ローライトの内に流してみるかな」
と言ってスピナーベイトとテキサスリグをローテーションしていく。
流し終わる直前にヒットしたのはジャストキーパーだ。
「やっぱり風が吹かないと大きいのは入ってこないのかな?
このサイズじゃないんだよね・・・」。

なんとかして入れ替えたいサイズだと山本は言うものの、
状況次第では運命を左右するかもしれない。
時間は7時45分。
スローペースではあるものの着実にスコアを積み重ねている。
その後、数カ所立ち寄ったものの反応が得られないため、
大きく移動して麻生・玉造エリアへと向かった。

グラスマットを目の前にした山本。
その中を撃つと思いきや、ふたたびフットボールジグを手にした。
「曇っているときはグラスのエッジで外を見て
ベイトフィッシュが寄ってくるのを待ってるバスがいると思うんだ」
時間は9時を回っている。
そろそろ次の1匹が欲しい時間帯なのだろう。
すると…「食ったよ、抜くからね!」
バイトの瞬間、手前へと走るバスが多いため、
その口を確実に捉えるフットボールジグをチョイスした山本だが、
その選択に間違いはなかった。



800gを追加し、ライブウェルの中は3匹で2500g強といったところだろう。
一通りエッジを流し終えると、
今度はグラスマットの中を撃つためにテキサスリグを手にする。
「今年は重めのリグでズドン! と落としてあげたほうが反応はいいんだよね」
エスケープツインと組み合わせたバレットシンカーは1/2oz。
パンチングで撃ち抜くのではなく、
ピッチングで正確に穴へと落としていくと、
ほどなくしてジャストキーパーを追加する。



「この2匹は入れ替えないと勝てないんだろうな・・・」。
リミットメイクまであと1匹だが、目標はそれではない。
あくまでも「勝つためのウェイトを手にするためには、
どうすればいいのか?」を考えながらの釣りだった。

このエリアでの反応が途切れたため、
隣のグラスマットへと移動するのだが、
その前に山本はテキサスシンカーを1/2ozから3/4ozへとチェンジした。
「中に入れるなら、このぐらいのほうが良さそうな感じだから」
直後、ラインが横に走る。
ウェイトを重くするという判断は間違いではなかった。
グラスマットの中から姿を現したのは約800g。
リミットメイクを達成した瞬間だ。



「でも、まだ3500gぐらいじゃないかな? これじゃ足りない!」
あとから振り返ってみれば、この時点でのウェイトは4kg近かったのだが、
山本も私もサイズを小さめに見積もっていたために出た言葉だ。
 
結果論で言えば、このままウェイインを迎えても
僅差で山本は優勝できていたと思われる。
だが、「結果として勝てた」のではなく
「すべてを出しきって勝った」と言うためには、
あの2匹を入れ替える必要があった。
「よーし、釣っちゃうよ」。

その後、グラスマットばかりにこだわるのではなく、
ハードボトムをバイブレーションで、
ベイトの寄る杭をダウンショットで、
さらにはシャローをテキサスリグのスイミングで、
バスの目線は上を向いている、
そして横方向に動くルアーに反応しやすい、
というのを意識しつつも、1つの限られたパターンだけにとらわれず、
トライ&エラーを繰り返していった。

初日も同様だったようだが、
その日によさそうなエリアと釣りを柔軟に狙っていく釣りをしつつ、
「ほんとにジャンクな釣りだよね」と山本は笑いながら話していたが、
試さないことには切り捨てることはできない。
試したからこそ、次の言葉が出てきたのだ。
「今日はグラスマットがいいんだろうね。よし、西浦に戻ろう」
そしてパーフェクトゲーム最終章の扉が開かれる。

時折、雲の隙間から射し込んでいた太陽の光も、
12時をすぎた頃にはほとんど見られなくなっていた。
光量によって明るいときはグラスの中、
ローライトになったときはエッジと狙い分けていたのだが、
最後のグラスマットはエッジだけに絞り込んでいたようだ。
「釣れるよ」。
これは山本の自信なのか? はたまた自己暗示なのか?
その直後、違和感を感じたのか大きくアワセを入れるが、
ロッドは曲がらない。



「バイトじゃなかったのかな?」。
そして、ふたたびフットボールをスイミングさせると、
今度は大きく弧を描いた!
「うぉー!」。
拳を握りしめ、山本が吠える。
その手にガッチリと握られたバスは1kgを軽く超えていたのだ。



口には出さなかったものの、
この時点で山本と私は勝利を確信していた。
しかし、山本は立ち止まらない。
あと1匹のジャストキーパーを入れ替えることができるまでは・・・。

朝、立ち寄ったワンドへと入り直すと、スピナーベイトタックルを手に取る。
「もっと風が吹いてくれたほうがいいんだけど、この風なら・・・」
先ほど立ち寄った際には「風が吹いてから勝負の場所」と言っていたものの、
ジャストキーパーを1匹追加することができた場所だ。
「ベイトが押し寄せられるとデカイのが入ってくるんだよ」
とも言っていたのであるが、
期待していたほどの風が吹くことはなかった。
「なんかすごいキャストが決まるよ。ゾーンに入っちゃってるって感じ?」。
冗談交じりに話す山本は充分にリラックスしている。



「絶対に食うよ」。
すでに食うことがわかっていたかのように、
そして、最後の1匹を入れ替えられることがわかっていたと錯覚できるほどに、
山本のゲームは鮮やかだった。
パーフェクトゲームとは、まさにこのような展開のためにあるのだろう。



ライブウェルに収められたラストフィッシュは800g。
少なめに見積もったとしても4kg台半ばは持っていることになる。
初日の4120gとあわせて8500gはある計算だ。



「やり切ったね。これで勝てなかったら、
しょうがないよ!これ以上のゲームはないから」
帰着〆切15分前、山本は土浦新港へと戻っていった。

結果、5フィッシュ5アライブ、ウェイト5120g。
山本がステージで流した涙は、誰のためのものでもないと思う。



過去、アングラーオブザイヤーを獲得し、
10kg男と呼ばれたこともあった山本だが、
その後スランプに陥って苦しんだ時期は長くつらいものだったのだろう。



2010シリーズ第一戦、久々の栄冠を手にしたときの笑顔とは対照的に、
今回はステージ上で溢れる涙を止めることはできなかった。
張り詰めた緊張の糸が切れてしまわぬよう、
ときにテンションを緩めながら戦い抜いた山本が、
ふとトーナメント中につぶやいた言葉を最後に記しておこう。



「人それぞれ、いろんなスタイルがあるんだけど、
それを自分のものとしてマスターするのには、
かなりの年月が掛かるんだよね。
いまの時代、トーナメントで魚を釣るには
うわべだけのテクニックで通用するほど簡単な世界じゃないからさ。
自分のスタイルを見失っていた時期もあったけど、
やっぱり自分が自信を持てる自分のスタイルで、
経験を積み重ねないことには、なんの意味もないってことに気付いたんだ。
そのためには日々努力あるのみ!
それが今年1年、そして今回のクラシックで見えた気がするな」

プレスアングラー 片桐聡一