2010 W.B.S.プロクラシック19


平本直仁 プレスアングラーレポート 初日 片桐聡一



プラクティスの魚を見切る勇気


各選手が思い思いのエリアへとステアリングを切る中、
平本はギリギリまで迷っていた。
プラで好感触を得られたのは桜川だが、
先行する選手とのバッティングが気がかりだったからである。
先行するボートの向かう方向をチェックしつつ、
自身のフライトを待つ。

広大な霞ヶ浦水系とはいうものの、
この時期に好釣果を見込めるエリアともなれば、
そこはこのレイクを知り尽くしたW.B.S.プロたち。
さらに、スタートエリアから近い桜川ともなれば、
バッティングは必至だろう。

それでも入る価値がある、そう考えたのは、
2日間に渡って戦われるクラシックだったからなのかもしれない。
「勝負したいけど、確実にキーパーも獲りたいし」
「いやー、弱っちいな」



だが、単にキーパーでのスモールリミットを求めるのではなく、
プラクティスで得られた確証があったからこそ、
ハイプレッシャーを覚悟で桜川へと入ったのだろう。
狙っていた地形変化とオダの絡む一級スポットに入ることができ、
そこで粘った時間は約90分。
ショートバイトや浅掛かりによるバイト直後のフックオフなど、
歯車が噛み合わないまま時間だけが過ぎていった。

ようやく手にできた1匹も、プラクティスの時に釣っていたサイズには、
ほど遠いコンディションの悪い魚だ。



「ここで時間を使っちゃいけないんだろうな。でも、この天気でしょ…」
空は澄み渡り、魚に口を使わせるのが難しい状況となっている。
先行していた選手、そして平本のあとから入ってきた選手も、
桜川を見切って河口へと向かっていった。
焦燥感に駆られつつも、少ないながらにあったバイトに、
後ろ髪を引かれたのか、ここで9時すぎまで時間を費やしてしまう。

次に向かった北東岸の消波ブロック。
プラクティスの時に、
思い付きでリグった変則ワッキーリグが思いの外調子よく、
ビッグフィッシュも手にできたという。



「ここは行きがけの駄賃だから」
とはいうものの、若干の期待はあったようだ。
2回ほど流し直すが不発のため、
もう1つのメインエリアと考えていた洲ノ野原へ向けて
スロットルを踏み込む。
狙っていたのはハードボトムの絡むブレイク。
風が入りベイトを寄せてくれることが第一条件になるそうだが、
期待通りの強さで風が吹き寄せ始めている。
「これは釣れちゃうかもね」
と冗談混じりに話していると、平本の目に緊張感が漂った。
桜川では皮一枚の掛かりだったために、
ドラグワークやファイトも慎重にならざるを得ない。
強引になりすぎず、かといってバスの自由にはさせずという、
さすがライトリグの名手と呼ばれるだけの見事なファイトであった。



こちらのバスはしっかりとベイトを捕食しているナイスプロポーション。
続いて1匹追加するものの、そこで風が止んでしまい、
それと同時にバイトも途切れてしまった。



ここまでの3匹はすべてストレートワーム(フリックシェイク)の
ジグヘッドワッキー(1.8g)での釣果なのだが、
風が強くなってもリグを重くするとショートバイトに終わってしまう。
逆に軽くしたり引っ張りすぎてしまうと、
リグがボトムから離れすぎてしまう。
ロッドとラインとリグのバランスを取りつつ、
限られたスポットから何匹ものバスを引きだす手段として
平本が導きだした答えがこれだった。
それと同時に、周辺のカバーなどをスピナーベイトや、
テキサスリグでのチェックも怠ることはなかったのを付け加えておこう。

何カ所か立ち寄って土浦周辺へと戻ると、
「もう一度だけ」と言って桜川へと入っていく。
陽が高くなったため、河口部の導砂管が作るシェードに狙いを絞ったのだ。
叩かれ続けハイプレッシャー化し、
口を使わせるのは困難かと思っていたのだが…
「みんな、意外と中のほうは撃ってないのかもね」
後から話を聞いたところ、
もちろん撃っていた選手はほかにもいたようなのだが、
平本が入った時間帯はちょうどその空白だったようである。

なによりも、リグを落とし込んだ形跡が残っていなかった
(導砂管に水しぶきの跡ない)のに気が付いた洞察眼が、
次の1匹を呼び込んだのかもしれない。
導砂管の切れ目、角、流れついたブッシュなどへ丁寧に、
かつ大胆にテキサスリグを落とし込んでいくと、
ふいにティップが引き込まれた。



単純な動作の繰り返しにこそ、
1つ1つのわずかな気配りが魚との勝敗を分ける。
鉄とスレてキズが入ったラインはこまめにチェックし、結び直していた。
ラインとロッドを信じて一気にゴボウ抜きするのに、
微塵さえ躊躇いはなかったのだ。



ラストに手にしたバスは1200g、
明日への可能性を掴んだ一瞬は長いようで短かった。 
リミットが揃わなかったことを悔やんではいたが、
ウェイインを終え、クラシックパーティーに来た平本の顔は、
すでに吹っ切れた表情になっている。
2日目の快進撃は別のプレスからのレポートされると思うが、
初日の最後に釣った1匹がその導火線になっていたのではなかろうか
と私は考えている。

片桐聡一


2日目 プレスアングラー 竹内聡



初日の渡邊選手の4270gを筆頭に、
上位陣はリミットをしっかりと揃え4kg台をマークしてきていた。
その中にあって平本選手は2970g/4本で、
初日8位という結果で折り返していた。
急激な冷え込みによる影響で参加選手全体が釣果を落としてはいたが、
それでも尚、ハイウエイトをマークしてこなければ、
上位には残れないその現実に埋もれてしまった感は否めない。

WBS選手の多くがそうであるように、
平本選手もパートタイムプロとして参加している1人だ。
クラシックに向けて湖上に出られる日は、全てプラに充てたい。
そんな想いとは裏腹に日常の業務が集中し、
満足に湖上に浮けない日々が続いていたという。

満足のいく環境を作りだせなかったことで抱える
ネガティブな面を振りはらうように
「プラではまず、魚の濃いエリアを探すこと」
そう語った平本選手。
東浦から入り、西浦、古渡、東岸を一周し、
湖全体の状況を把握することに集中していたように感じられた。
結果としては、湖全体に魚が散っていることを確認し、
桜川河口周辺でわずかによい感触を得た程度であった。
決定的なものはなにもない。
結局は大会の最中で探していくしかないといった状況だ。

そうして得た初日の4本を前にして2日目の朝、
「その日を闘う」と語ってくれた平本選手。
状況は決して明るくないように感じられた。
それはプラクティスで感触を得ていた桜川を捨て、
朝一から東岸を目指したことからも明白といえるだろう。

そして、AM10:30
霞ヶ浦の南側に位置する州の野原のキースポットと、
真珠棚でラン&ガンを繰り返すものの、
ここまで完全ノーバイト。



「いるのかいないのか、いても口を使わないのか、
リグが合っていないのか…」。
心中を察せられる迷いとも悩みともとれる言葉が漏れる。
そして、「州の野原を出ます」そう一言だけ言うと、
一路、小野川へとボートを走らせた。

小野川河口付近では、前日より水質が悪いように見えた。
そう、前日私は宮澤選手に乗船し、
今回よりも少し遅い時間にここを訪れていたのだ。
その時も完全ノーバイト。
最悪の結果が脳裏をよぎる。
だが、しかし、プレスアングラーとしてそんなことを語ることは許されない。

「攻め方が違えば、違う魚が釣れるから人の通った後でも釣れる」
そう語ってくれたのは前日の宮澤選手だった。
昨日と同じ結果が待ち受けているのか、それとも・・・。



ここで投入されたのが、これまでとは一転。
シルエットの大きなシェイキーワームに重めのシンカー
という組み合わせ。
横の動きで攻めた宮澤選手のそれと正対するように
平本選手はフォール&ステイで攻めていく。
そしてエリアに入って30分もしないうちに上がってきたのが、
1400gのグッドコンディションバスだった。





折れそうになっていた心にアドレナリンが流れる。
モチベーションをガッチリと上げるのに充分な1本だ。
そして更にそこから30分ほどの間で2本目を追加。



わずか一流し目でこれまでの重い空気を一気に振り払うことに成功。
途中、1本をばらし、1本をフッキングしきれなかったものの、
1時間もしないうちに4本をキャッチし4720グラムを叩き出した。


結果はトータルウエイトを7710gまで伸ばし3位。
優勝を勝ち取った山本選手とは1530gの差をつけられていたが、
初日の結果を覆ししっかりと自身の見せ場を作りだした平本選手。
「さすが…」と思わず言わずにいられなかったのと同時に、
バストーナメントの面白さを再認識させられた。



他の業界のプロと呼ばれるスポーツ選手とは違い、
「バスプロ」というものにおいては
フルタイムで闘えるアングラはー少数派だ。
専門プロではない中でプロと呼ばれるバスプロの「存在意義」
についてはトーナメントアングラーではない人達にも
語られることのある話題だ。

しかし、私はこう思う。
プロとしての意識の高さだけではもちろんプロとは言えない。
コンペティターとして結果を出してこそというのもあるだろう。
だが、今回同船して感じたのは、見る人に期待感を与え、
ワクワクさせてくれる試合を創りだす力をもっているかどうか。
そして何よりもそれを継続しつづけていくことに
あるのではないかと感じさせられた。

〝never give up!〟平本選手が信条とする言葉の体現。
それは一試合一試合にかけた想いとともに、
プロとして続けていく決意の表明に他ならないのだろう。



その絶対的強さを誇る赤羽選手をはじめ、
強豪選手がひしめき合うWBSにおいて、
今後、平本選手がどのような試合を魅せていってくれるのか?
注目していきたいと思う。

竹内聡