2008 W.B.S.プロクラシック17 |
蛯原 英夫 プレスアングラーレポート 竹内 聡 「まだ狙えるからね」。 蛯原選手からその言葉を聞いたのは、 第4戦で私が蛯原選手のペアとして、 バックシートに乗っていた時のことだった。 第3戦終了時でのウエイト差は1710g、 確かに残り2戦もあれば逆転を狙える差ではあったが、 惜しくもこの日、蛯原選手と私のペアは20位。 首位を快走する赤羽選手は10位。 少しでも差をつけなければならない中、その差は2430g。 逆に720g差が追加されることになってしまった。 あの魚を掴めていれば…そんなシーンがあっただけに、 私の中にかすかな心残りが生まれてしまっていた。 その記憶がまだ消えきらないまま迎えた 最終戦初日のウエイインショー。 各選手の検量が終盤を向かえる頃、会場にどよめきがおきる。 4200gのTOPウェイトをマークした蛯原選手が、 赤羽選手を140g上回り、 その日初めて2008シーズンの首位に立ったのだ。 最終戦の2日目、最終日のウエイインまで 2008シリーズのドラマはもつれ込んだ。 結果はすでにご存知の通り、2日目に粘り強さをみせた赤羽選手が、 再度逆転劇を演じAOYを獲得。その差はわずか170g。 その場に居合わせた人の多くが、 その日迎えた2008シリーズの結果に震えた。 私もその激戦というに相応しいトーナメントゲームを、 目の当たりにした1人だった。 そしてクラシック。 私は蛯原選手のプレスとして同船させていただくこととなった。 W.B.S.2008シーズンの中心にいた選手のひとり、蛯原英夫選手。 2日間で全てが決するクラシックという大舞台でどのような戦い方をするのか、 選手としてバックシートに乗せていただいた時とは また少し違う緊張感を感じながら私はボートに乗り込んだ。 DAY1 「スタート順はいつも良くないんだよね」。 そう笑顔でいう蛯原選手のスタート順は、参加23艇中の19番目。 スタートをコールされた時、既に前を行く参加選手の船は 数艇しか確認できない。 06:05 ファーストポイントとして入ったのは古渡エリアだ。 「誰かが入っていると思っていたのでラッキーだよ」。 小さくガッツポーズをしながら安堵した表情を浮かべる蛯原選手。 プラクティスでグッドフィッシュを連発したというポイントだ。 タバコに火をつけながらゆっくりとボートを近づけ、 蛯原選手のクラシックはスタートした。 水面に見えているストラクチャーに対して 水中で絡むようにその少し奥へキャストしたりタイトに縦フォールをさせたり。 その日の、魚の反応の出具合をチェックするように 丁寧なアプローチで次々と手早く打ち続ける。 しかし、小さな風裏にとなるようなスポットや 見た目がオープンフラットにしか見えない場所など、 リグを通す範囲を少し広げたりもしたが、魚からの反応はない。 「ここは出れば、いいサイズなんだけどね」。 その言葉が示す期待感を裏付けるように、 この日、ファーストエリアへは数度入りなおすが、 大会中この場所でロッドが絞り込まれることは一度もなかった。 そして、雨がパラパラと降り始める。 07:00 「ランガンタイムにはいるね」。 そういって古渡周辺のショート移動を繰り返し始めると、 15分ほどしてから雨あしが強くなり、 北北東の風も若干ではあるが吹きはじめる。 気圧の変化を意識してか、スロースイミング系、 フォールや巻物系と要所でリグを変えアプローチの幅を広げる。 しかし、バイトは遠い。 7:50 「きびしいねー」。 大会前のプラで各日ともに3〜4kg台が獲れたことなど、 プラからの流れを説明してくれた最中に出た言葉だ。 しかし、蛯原選手の表情に焦りは見えない。 プラの時と比較して水位が20cmほど減水している話に及んだとき これまで鬱憤を晴らすようにロッドが弧を描く。 7:58 待望のファーストフィッシュ! 「やっぱりいたよー!」。 そういってブッシュの奥から魚を引き抜き、 手早くライブウェルへ。コンディションの良い600gほどの魚。 約2時間のノーバイトに影響されることなく、 一定のリズムを刻みながらリグを送りこんでいった蛯原選手の強さが、 引き出した1本だ。 そして、余韻にひたることなくラインを結びなおすと、 すぐに次のキャストに移る。 こうした一連の動作の一つにも無駄な動きがない。 しかし、この歓喜は持続することはなかった。 「やっぱり、減水の影響が大きい感じだね」。 そういわれてショアラインに見える葦の根を見ると、 普段は水面下にあるであろう根元付近までが露出している。 この後、流入河川にも入り、流芯付近にある縦ストなどを攻めるものの 少し岸から離れたカバーでバイトが数回あったのみだった。 そして、エリアを本湖東岸のジャカゴエリアへと移す。 10:40 「苦しいね」。 東岸へとエリアに入って40分あまりが過ぎた頃にこぼれたその言葉。 まだ日が昇りはじめて間もない頃の一言と明らかに異なって聞こえた。 このエリアでもバイトが遠いのだ。 スタートから5時間近くが過ぎてなお、 ライブウェルには1本目の魚しかいない。 コンセントレーションの持続も厳しいはずだ。 11:20 杭が密集していて少し水深のあるエリアでのバイトだった。 荷重がのりきる前に、ロッドはその形をもとへと戻し、 16lbのフロロラインは力なく空をゆれていた。 「今のはいいサイズだったよ…」。 言葉が詰まる。 痛恨のラインブレイク。 そして、東岸エリアのショート移動を繰り返す。 11:40 水深が50cmほどの場所もある沈み物の多いエリア。 入り組んだ杭に対してタイトに落とした瞬間、 蛯原選手の背中が大きくのけぞる。 ロッドが弧を描く! が、しかし、 ここでもまた魚は水面を割って出てくることはなかった。 再びラインブレイク。 「キーパーは充分にあるサイズだったよ…」。 そう蛯原選手はもらした。 落胆の色が一瞬見えたように感じるが、すぐさまキャストを続ける。 バイト数そのものが少ないこれまでのことを考えると 状況は悪化しているかのようにも感じられた。 だが、それは誤りであることを蛯原選手は魅せてくれる。 バレたとはいえ、魚からのコンタクトはあった。 それが、ヒントになったのか撃ちつづけるテンポは極めて速い。 そして、その約30分後。 これまでの鬱憤を晴らすかのようにロッドがしなる。 12:33 上がってきたのはキロを明らかに超える魚だ。 丁寧にハンドランディングを終えると、 蛯原選手から会心の笑みが漏れる!! 「やっぱり浮いてるね、下から喰ってくるよ」。 ヒントが確証に変わった瞬間だ。 12:59 続けて、800gサイズのグッドサイズ! 水の当たり面にある単発の杭から、 グッドサイズの魚が姿を現し、危なげなくランディングする。 この時点で3本。先の2バラシが悔やまれるが それまでの厳しい状況が一変した。 バイトは連続している。しかもサイズがいい。 そしてさらに連発!! 13:10 またもや800gサイズのグッドフィッシュだ。 リミットまで後1本!! チャンスを逃さないTOPプロのその“凄み”に 私は全身に鳥肌が立つのを覚えた。 だがしかし、この後、ラストランをしかけるものの、 この後、霞ヶ浦のバスがふたたび蛯原選手のロッドを絞りこむことはなかった。 結果は、9人が3kg台をマークする接戦となる。 その中で、蛯原選手以外のTOP8人が5本をウエイインしてくる中、 唯1人、4フィッシュで3330g、初日6位となる。 蛯原選手が手にした魚のアベレージの高さが伺える結果だった。 ウエイインを待つ蛯原選手は、 バラした魚を多少悔しそうに話もしてくださったが、 「明日にはつなげられたでしょ、明日が勝負だよ」。 そういって、初日を終えた。 DAY2 初日とうって変わって晴天に恵まれた2日目。 スタート順は初日との逆。つまり5番スタートとなる。 初日の遅めのスタートは、その日のさまざまな苦境を乗り切ったことで 厳しさをます2日目に追い風へと転じさせた、そんな印象を受ける。 そしてスタートがコールされ、蛯原選手の駆るチャンピオンは、 徐々に顔をだしはじめた太陽にむかってまっすぐと進む。 向かうのは初日の終わり際に連続キャッチをしたエリアだ。 6:19 「昨日はタイミングっぽいね、 今日も何回か入りなおして釣っていくと思うよ」。 そして、フィッシングスタートとなるエリアに進入しながら、 リグが魚のいる場所を通れば反応は早いはず、とも語ってくれた。 決して多いとはいえない魚からのコンタクトだったが、 蛯原選手は何かを掴んでいるようにも見えた。 そのせいか、ボートを流す速度も明らかに速く感じる。 それが、結果へと繋がってくれることを私は心の中で念じた。 そして、その答えは早くに訪れる。 6:35 「よしっ!」と小さく声をあげると、 手にしていたロッドがきれいなベンドを描いている。 慎重なやりとりをしつつ、後部デッキでランディング。 キロをやや欠けたくらいのグットコンディションの魚だ。 そして、昨日からの流れで確信をえたようにさらに撃ち続ける。 リグはSストレートにオフセットフック仕様のネコリグ。 昨日連続バイトしたリグと同一だ。 「ベイトがたくさん入ってきているね」。 蛯原選手にそういわれて水面を見ると、 たしかに表層付近に小さな影が見える。 昨日よりも生物感があきらかに多い。期待感は高まる。 7:00 2本目! 800g程のグッドサイズ!! 「やっぱり、上を向いているよ、 昨日より少し深いけど表層でくってきたもんね」。 昨日の終わり際の3連発から今日の朝の連続HIT。 “ヒント”が確信へと変わりさらに集中して、撃ち続けていく。 7:13 3本目! 「きたねー!!!昨日よりもいいペースだよ!!」。 そういって見せてくれた魚は明らかにキロを超えていた。 フィッシングスタートから約1時間で3本。 表彰式の関係から帰着時間が若干早い2日目だからこそ、 朝の早い段階で魚が獲ている価値はとてつもなく大きい。 ましてや、釣れる魚が全てグッドサイズだ。 しかしこの後、蛯原選手にも私にも思いもしない展開がはじまる。 7:34 昨日、かなりのグッドサイズをバラした杭へと向かう。 しかし、丹念に一本一本の杭を攻めるが、 魚からの反応は返ってこない。 8:30 移動を繰り返す蛯原選手。 バイトは3本目の魚を境にまったくなくない。 この時間帯の前後で南東風から北東風へと、 目まぐるしく風向が変化する。 9:45 「やっぱり最初のエリアにいるべきだったかな」 撃ち流しで終わらせたことを少し悔やむようにそういうと、 この後、15分ごとに移動を繰り返す。 10:40 水質は悪いように見えない。ベイトも豊富に確認できた。 結局、スタートしてまもなく釣れたエリアにも入りなおしたが、 ノーバイトは更に続く。 11:12 エリアを大橋周辺へと移していく。 索敵範囲を広げるかのように、それまで中層を軸としていたリグから、 時折、スピナーベイトやテキサスなどにチェンジしつつ、 ジャカゴや沖目の杭、葦などをチェックしていく。 あたかもその一帯から魚が消えさったとさえ思えてくる。 11:52 「古渡へいきます」。 トーナメントシーン以外では決して見ることのできないであろう コンペティターとしての蛯原選手の表情がそこにあった。 12:28 古渡に入り、すでに数箇所をチェック。 風裏、ブッシュ、葦、杭を撃つ。だが…。 「ダメか…苦しい…」。 バイトというバイトが無くなり、すでに約5時間が過ぎていた。 そして、それまで淡々と撃ち続けていた手を止め、 ロッドを肩に担ぐしぐさを見せる。 私はただ、見守るしかなかった。 そして、意を決したかのように移動。 12:35 これまで、縦系の“何か”と水深を軸に魚を探しているようだったが、 時折、ボートの腹をこするほどのシャローが絡んだ、エリアへと移動する。 所々に点在する、ヘビーカバーの隙を縫うようにテキサスリグを送り込んでいく。 しばらく撃ち流しを続けて、ついにきた。 渾身のフッキング! 12:41 魚の背が見えるのではないかというその場所からでてきたバス。 「長い! 長すぎるよ!! あたりのない時間がっ!!!」。 そういって、これまでの鬱憤を会心の笑みで吹き飛ばす蛯原選手。 サイズは小型だが、可能性を繋ぐ貴重な1本だ。 帰着までの時間を考慮すると充分な時間は残されていない。 しかし、リミットメイクのための「1本」を獲る時間はある。 リグを結びなおすと、すぐさまキャストに移る蛯原選手。 無駄な時間は1秒とて掛けられない。そんな思いが全身から伝わってくる。 そして、その数投後。 リミットメイクに届くバスがHIT!!! 12:44 蛯原選手の背中が大きく反るのと反対方向にロッドもしなる。 だが… だが、しかし、カバーからはリグだけが勢いをつけて戻ってきた。 絶叫を抑え込むように天を仰ぐ蛯原選手。 ヘビーカバーのため喰いが浅くなってしまったのか、 魚の向いていた方向が悪かったのかもしれない。 「今のは、いい魚だった、重さが伝わったよ」。 といいながら見せてくれた手の中のワームは、 フックから大きくずれていた。 そしてこれが、今大会の結果を決定づける最後のバイトとなった。 13:27 帰着。 結果は3350g/4フィッシュ(2日目) トータル6680g 優勝した山田選手とはトータルで180g差だった。 ■あとがきのようなもの■ あのバラシが…といったものもあって、 結果からみれば後1本が届かなかった蛯原選手。 しかし、一部始終を見ていた私はむしろ、 苦しく長い時間と状況が混然として押し寄せる厳しい状況の中から 後1本のところまで“迫った”といった方が しっくりくる内容の大会でした。 最後まで集中力を切らさずチャンスを引き寄せる蛯原選手。 トーナメンターとしての「強さ」「力」の原点を存分に見せていただきました。 そして、ウエイインをする前にサインを求めてきた少年にも、 疲労のかげりも見せず、笑顔で応える蛯原選手。 ライブで見るバストーナメントがこれほど ドラマチックで面白いものとは…そんな想いでいっぱいです。 極上のエンターテイメント独り占めといったところでしょうか。 現場での緊張感や臨場感、そして、 私の見たものを映像としてお見せしたいのですが、中々文章では…。 そんなわけで時系列で追ってみたのですが、 長くつたない内容でゴメンナサイ(笑)。 蛯原選手の強さやゲーム展開などが少しでも伝えられていたら幸いです。 最後までお読みくださりありがとうございました。 最後に、この場をお借りして しびれる様なトーナメントを見せてくださった蛯原選手に感謝です!! ありがとうございました!!これからのご活躍に期待しております。 ■プレスを経験されたことのない皆さんへ■ 参加選手全員とお話することはできませんでしたが、 2日間のプレスをすることで参加をさせていただけるパーティーなど、 これまた普段では見ることのできない選手の方たちの交流? トークショー?も盛り上がり、楽しませていただきました。 また、たくさんのプレゼント…なぜだか、そうなぜだか 呑みかけの焼酎の一升瓶(←これは通常はないです、たぶん) までいただいたり…。 プレスは緊張もしますが、やっぱりTOPトーナメンターの釣りを、 ライブで見れるのは編集されたDVDなどとはまた、 一味も二味も違った魅力が溢れています。 トーナメント参加よりも敷居が低いので、 経験されたことのない方には、ぜひ! お勧めです!! ただ、呑みすぎにはご注意を。 Take |